内容証明・示談書・合意書作成
嶋田法務行政書士事務所 千葉

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当事務所が作成した内容証明の文例ーセクハラ・パワハラ事案を例に

                     
                     通知書

冠省
一、私、神奈川花子は、東京都江戸川区○○にある○○店の衣料品部門の契約社員でした。その勤務当時に当時の上司である衣料品部門の主任葛飾太郎殿(以下葛飾殿と言います)より、セクハラ・パワハラ行為を受けました。かかる行為は、社会通念上の受忍限度の範囲を著しく超えて、私の権利利益を侵害していますので葛飾殿に法的責任を負っていただきたく、かかる通知書を送付しました次第です。

二、葛飾殿の行為がセクハラ・パワハラ行為に該当することについて。
(1)セクハラとは、職場において、労働者の意に反する性的言動があり、それにより職場環境が不快になり就業に支障が生じていることを言うと解されます。
○○店衣料品部門という職場において、葛飾殿は、平成20年1月ごろより同年11月ごろまでの期間、私が止めるように幾度も申し述べたにもかかわらず、私の意に反し性的言動(具体的には○○や○○などの言動ー上記言動がセクハラに当たるとする裁判例あり)を、のべ20回くらいにわたり反復継続し行いました。
職場でのかかる反復継続された意に反する性的言動は、社会相当性を著しく逸脱し、著しく精神的身体的苦痛を生じさせる違法な行為と思料いたします。これが原因で私の就業に支障が生じ、私はそれにより精神疾患を患い退職に追い込まれました。葛飾殿のかかる職場での性的言動は、セクハラ行為(違法行為)に明確に該当します。
(2)パワハラとは、職場において職務上の地位など優越性を背景に精神的身体苦痛を与えることを言うと解されます。
葛飾殿は、○○店の衣料品部門という職場において、私に対しミスをすると「全く使えない奴だ」などとひどい暴言や侮辱的発言があり、私に対し気に入らないことがあると私の身体に向かって直接接触はないけれども「箱」を投げつけたり(間接暴行に該当)、「そんな仕事ぶりだと辞めてもらうからな」などと威圧的言動がありました。業務上許容される適正な範囲(指導)を超えて、主任(上司)という優越性を背景に反復継続的に精神的苦痛等を与えられたので、上記行為はパワハラ行為(違法行為)に該当します。

三、(1)故意過失により、他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、不法行為による損害賠償責任を負います(民法709条)。私には、性的自己決定権などの人格権、名誉感情、私生活の平穏(私には夫がいます)及び良好な職場環境で働く権利などの、権利や法律上保護されている利益があります。
社会相当性の範囲を著しく超える度重なる葛飾殿のセクハラ・パワハラの重畳行為により、私の上記権利や法的利益を侵害し、不法行為を構成します。実際、かかるセクハラ・パワハラ行為を葛飾殿より受けた後に、6月中旬ごろ○○店の店長に涙を流しながら事情を申し述べたところ、店長は「それはセクハラ・パワハラだね」と言って認めています。
(2)そこで、葛飾殿に対し、不法行為に基づき、①治療費2万円、②慰謝料40万円(慰謝料を認める裁判例多数)、③逸失利益30万(逸失利益の賠償を認める京都地裁 平成13年3月22日判決など裁判例多数)の合計72万円の損害賠償をご請求します。
(3)請求額算定の根拠について。
①治療費算定の根拠につき、葛飾殿のセクハラ・パワハラ行為により精神疾患にかかり現在精神科に通院加療しておりますが、支出した診察・投薬料金・通院交通費。
②慰謝料金額算定の根拠。セクハラ・パワハラ行為により精神疾患(病名はうつ病-診断書あり)にかかり、持続する強度の精神的落ち込み、極度の不安や緊張、体の震え、睡眠障害にかかるなど精神的苦痛が大きいこと。月2回程度3ヶ月間、現に精神科に通院し、今後も通院加療の必要があること。
セクハラ・パワハラ行為は反復継続されて行われ、職場での優越的地位を背景に、これを利用して行われており行為の悪質性が高いこと。○○店において継続従業することができなくなり、退社となってしまったこと。同種事案の過去の裁判例にかんがみても慰謝料金額が多額とは到底言えないことなどが根拠です。
③逸失利益(得べかりし賃金についての損害)算定の根拠について。
セクハラ・パワハラ行為により、うつ病にかかり、療養中であり就業できず収入が得られないこと。セクハラ・パワハラによる心身の不調がなければ、今後も業務に継続従事することが確実であったのに、セクハラ・パワハラにより退社せざるを得なかったこと。。
請求の逸失利益額は、私の月収のおよそ2カ月分であり、比較的少額であること(逸失利益を賃金の6カ月から1年分とするもの裁判例多数あり)が根拠です。
(4)上記金額は、問題の解決を迅速かつ円滑に図ることを念頭に金額を最低限に設定致しているものであり、仮に当方に納得のいかない誠意のないご回答であったり、本通知書を無視しご回答をご送付しない場合などで、後日裁判など法的手続に移行した場合は、これとは異なるご請求金額になりますことをご了解ください。

四、葛飾殿の使用者で、法人である株式会社○○様も、従業員である葛飾殿のセクハラ・パワハラ行為により、会社の事業の執行につき私に損害を与えているといえますので、使用者責任(不法行為)による損害賠償(民法715条)を負います。
また、労働者の身体的人格的な利益を不当に害されることのないように、会社には、職場環境を整える職場環境配慮義務(福岡地裁 平成4年月16日判決など多数の裁判例で認められています)があります。株式会社○○様は、私に対する上司によるセクハラ・パワハラ行為があったのに、それを是正しないで、上記義務を履行せず漫然放置し、上記義務に違反もしていますので、債務不履行責任(民法415条)による損害賠償を負うと思料します。
株式会社○○様にも葛飾殿のセクハラ・パワハラ行為につき法的責任があり、責任追及もできると考えますが、しかし、私としては、現時点において、株式会社○○様の法的責任を主張追及する意思はございません。あくまで葛飾殿個人と私個人との間の法的問題として解決したく存じております。
ただ、葛飾殿の回答書が私の要求に即しない誠意のない内容であった場合、本通知書を無視しご回答をご送付しない場合には、不本意ではございますが、株式会社○○様への法的責任追及も検討することになりますのでご了承ください。

五、本通知書到達後、私の前記請求につき葛飾殿本人からの誠意あるご回答書を、書面(お電話や直接面会はご遠慮願います)にて7日以内に私神奈川花子宛にご送付ください。仮に、7日以内に葛飾殿自身からの誠意ある、上記書面によるご回答書が到達しない場合には、裁判手続きなど法的措置をとりますので、ご了承ください。                                                                                     草々


                      
通知書のポイント解説

女子レスリングの日本代表選手にコーチがパワハラをした事件や財務相の官僚がテレビ局の女性記者にセクハラをした事件があり、セクハラパワハラがトピックな話題となっていることから、内容証明(通知書)の具体的事例として取り上げました。
私は、セクハラパワハラの専門家ではありませんが、おおむねどの分野でも文例に挙げられた内容証明(通知書)と同じかそれ以上のレベルで作成しております。
通知書作成では、まず事案の分析。次に問題点の把握。問題点を解決するうえで必要な視点観点や構成(骨組み)。構成(骨組み)基づいて、日本語を展開していくことで作成されます。
私の基本的視点観点は、「駆け引き型」ではなく「原則立脚型」にもとづいていることです。もちろん駆け引き型で成功する場合もあります。しかし、私が基本としているスタンスは客観的基準を提示し、客観的基準に従って問題を解決するスタンスです。客観的基準の代表例は、「法律」でしょう。次に「裁判例」。また、「裁判例で使用されているさらなる具体的基準。」「学説」「実務の運用」「その他客観的準則」「主張の根拠づけの合理性や理由づけ」もこれに入るでしょう。

1、本通知書の一番のポイントは、「駆け引き型」を前提に、大きく請求金額を設定し、ではこのくらいの金額で落としましょうではなく、「原則立脚型」を前提に請求金額の算定根拠(基準)を示しているのが大きなポイントです。つまり加害者被害者ともにフェア―な解決です。
通知書(内容証明)では、請求金額がなぜこの額になったのかその基準(根拠)の論証はしないものが多く見受けられますが、相手方としてはふっかけられて過剰に請求されているのではないかと疑うでしょうから、そのようなことはなく客観的基準に基づき算定さている適正な金額であると認識してもらうことが重要と考えます。金額の客観的算定根拠を示すのだから、過剰に大きな金額をふっかけることができません。そして請求金額の客観的根拠を示すことで、相手方がお金を支払う確率は高まります。

治療費は領収書などでその額は客観的に算定できますが、慰謝料は、精神的苦痛に対する損害賠償金でして、金額の客観性が明確になりません。そこでできるだけ、慰謝料算定の際の考慮要素を検討し、過去の裁判例等も検討し、よってこの額であると論証します。本通知書の慰謝料の根拠のところで、「セクハラ・パワハラ行為は反復継続されて行われ、職場での優越的地位を背景に、これを利用して行われており行為の悪質性が高いこと」が考慮要素として記述されていますが、これは裁判例でも考慮されている準則です。交通事故の慰謝料算定で使用される「入院通院慰謝料」をもとに算定される基準表(通称赤い本)も一つの参考になるため、慰謝料額の算定には、被害者の通院月数も考慮要素の一つでしょう。通院月数が多ければそれだけ重症であるということです。よって本通知書でも、「月2回程度3ヶ月間、現に精神科に通院し、今後も通院加療の必要があること。」と記述し、慰謝料算定の基準としています。

逸失利益も、過去の裁判例を検討し、多くは6~12カ月を基準に算定されているとし、本事案ではこれより少ない月数である2カ月を基準に算定すると示し、こちらも逸失利益の金額に譲歩するから、相手方も納得してもらい易くなる論証となっております。むろん裁判とかなれば、最大限の月数と金額の請求となるでしょう。

また、依頼者の希望もありまして、相手方が比較的容易に支払える金額に設定していることです。裁判をすればこれ以上取れる可能性も高いですが、円滑かつ早期の解決を目指すときには、縮減された金額にと止めるのもポイントです。
事実は真実なのだから、裁判をすれば絶対勝てると思うのが多くの方の心情でしょうが、裁判は証拠に基づき裁判される(証拠裁判主義)ので、事実を証拠に基づき立証していかなければならず、立証できるだけの証拠の提出がなければ事実はないものとされてしまいます。客観的証拠による立証はそんなにたやすいものでなないと考えます。事実は真実であっても、労力や費用をかけて裁判したら自分は負けるという覚悟もしなければなりません。費用や労力をかけず、裁判などおおごとにせず、譲歩し縮減した金額ではあるが、確実に早期円滑に取得できる方法も有力な選択肢の一つでしょう。

2、セクハラとパワハラの認定が重要です。相手方はセクハラはしていないと反論する可能性があるため、できるだけ具体的に詳しく論述していくことが良いでしょう。本通知書のセクハラ行為の論証は、それほど具体的に詳しくは書いていないのですが、実際の文例では、ここを具体的に詳しく論証します。これは、相手方にセクハラ行為につき認識してもらうとともに、心理的プレッシャーをかけることになります。

3、セクハラパワハラで不法行為が成立するとされますが、不法行為が成立するには、権利侵害がなければなりません。そこでセクハラパワハラで保護される権利が何で、どうその権利が侵害されているか書きます。不法行為が成立する事案ではこれは一つのポイントとなります。本通知書でも、「性的自己決定権などの人格権、名誉感情、私生活の平穏(私には夫がいます)及び良好な職場環境で働く権利などの、権利や法律上保護されている利益」として保護される権利を明確に指摘しています。

4、セクハラパワハラは加害者(個人)には不法行為(民法709条)が成立しますが、個人を雇っている会社(法人)にも使用者責任(民法715条)と債務不履行責任(民法415条)が成立します。
戦術として、請求していくターゲットとして、まず個人を選びます。通知書業務で、請求していける相手方が2名以上いる場合、一番弱い相手を選びます。
そこを攻撃します。会社にも請求していけるのだから、同時に会社にも請求していくという戦術は初期段階ではとらないのが良いでしょう。相手とする人数も増え、会社は相手として強力です。
個人には、あなたのせいで会社にも責任が生じているのだから、会社にも責任追及していく準備はありますよということをちらつかせておきます。本通知書でも「株式会社○○様への法的責任追及も検討することになります」と記載してあります。あなたはそれだけ大きな問題を犯してしまったということの重大性を認識してもらいます。

5、よく内容証明(通知書)のサンプルで、「200万円を下記口座に本年5月末日まで支払え」とし、銀行口座を記載してある文例を見ますが、内容証明1通で、200万円をぱっと銀行口座に振り込む人がいるのでしょうか。事案にもよりますが通常はいないと思います。本ケースでそのように書いていったら、相手はその金額を振り込んでこないでしょう。
それに相手にも言い分があるでしょうから、多くのケースでは「回答書」を相手に出してもらい相手の意思を確認するのがスタートでしょう。
まず第一段階では、下記銀行口座にお金を振り込めではなく、本通知書に対する回答書を送付してくれと請求します。要求するのは、多くの場合相手方の「回答書」です。
また、特に物的証拠の乏しい場合、「もっと金額を低くしてくれ」とか「支払いを分割払いにしてほしい」など相手の回答書を送付してくれば回答書(事実や債務の承認ある種の自白)が証拠として機能するでしょう。証拠のない場合、あえてそちらの回答書作成に導く文章テクニックをとることもあります。


     



            

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